Saturday, April 21, 2018

ise21

 里に帰っていました頃、秋の花がとても趣深かったので、式部卿(敦慶親王)に捧げようと思って―

伊勢
148 ふるさとのあれてなりたる秋の野に花見がてらに来る人もがな
(故郷が荒れて変わった秋の野に 花見がてらに来る人いれば)

お返し―

敦慶親王
149 秋野に我松むしのなくといはば折らで根ながら花は見てまし
(秋の野に我「まつ」虫が鳴くのなら 折らず「ね」ながら花を見たいわ)


 人が―


150 磐瀬山谷の下水うちしのび人の見ぬ間はなかれてぞ経る
(磐瀬山谷の下水耐え忍び 人の見ぬ間は泣く毎日よ)

返し―

伊勢
151 たきつ瀬のはやからぬをぞ恨みつる見ずとも音を聞かむと思へば
(滝つ瀬が急でないのを恨みます )見ずとも音を聞こうと思えば


 同胞が亡くなった時に懐かしく思い出して―

伊勢
152 面影をあひ見るかずになすときは心のみこそしづめられけれ
(面影を生きてるものと見なすなら 心だけでも鎮められるわ)


 長柄の橋を造るというのを聞いて―

伊勢
153 津の国の長柄の橋も作るなりいまはわが身を何にたとへむ
(津の国の長柄の橋も造り替え 今は我が身を何にたとえよう)


 いやに、人が口を出してくるので―

伊勢
154 知るといへば枕だにせで寝し物を塵ならぬ名のそらに立つらん
(知るからと枕もせずに寝たものを 塵でなくなぜ噂立つのよ)


 あの人が冷淡になった頃―

伊勢
155 人知れず絶えなましかばわびつつもなき名ぞとだにいふべき物を
(人知れず絶交したなら 苦しくも事実無根と言えるものだわ)


 あの人が心変わりをした頃。絵の中に、末の松山を浪が越える様子を見て書きつけた―

伊勢
156 松かけてたのめし人もなけれども浪の越ゆるはなをぞかなしき
(松に懸け頼れる人もいないけど 心変わりはさらに悲しい)


 友達である人の妻が、筑紫へ行くと言って―


157 をさへつつわれは袖にぞせきとむる舟こす潮になさじとおもへば
(抑えつつ私は袖に堰き止める 舟越す潮にはしないように)

返し―

伊勢
158 おくれずぞ心にのりてこがるべきわれは涙を海になしつつ
(遅れまい 心に乗って「こがれ」よう 私は涙を海にしつつ)


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Friday, April 20, 2018

伊勢集20

 七宮御息所(藤原佳珠子)の八十歳の祝賀、大臣が施したお屏風の和歌―

伊勢
141 我やども照り満つ秋の月影はながき代みれどあかずぞ有りける
(我が家にも照り満つ秋の月影は 永年見たけど飽きずにいるよ)


 鈴虫をとって、前栽に放とうと思って―

伊勢
142 いづこにも草の枕をすずむしはここを旅ともおもはざらなん
(どこででも草枕する鈴虫は ここを旅とは思わず居てね)


 事実でない汚名がたってしまったころ―

伊勢
143 よとともにわがぬれぎぬとなる物はわぶる涙の着するなるべし
(常日頃我が濡れ衣となるものは 辛い涙が着せるのでしょう)


 情を通わせ、なお関係を隠していたころ―

伊勢
144 あひみてもつつむおもひのわびしきは人まにのみぞ音は泣かれける
(契っても隠す思いの苦しさは 人いぬときだけ泣いています)


 離れていて思い出した人の消息がなかったので―

伊勢
145 古里にあらぬ物から我ために人の心のあれてみゆらん
(古里というのでなくも 我が目には人の心が荒れて見えるよ)


 亭子院のお屏風に、
庭のほとりに紅葉がある―

伊勢
146 うきしづみふちせ流るるもみぢばに深く浅くぞ色はみえける
(浮き沈み淵瀬流れる紅葉の葉 濃く薄くと色は見えるよ)

鳴子を紐で張り渡すところ―

伊勢
147 うちはへてもる綱をのみ引くときは稲葉に露ぞとまらざりける
(ぴんと張り守りの綱を引く時は 稲葉に露も止まらず落ちる)

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